「Fashion ファッション」 by deirdre original

【私は、トランスジェンダーのお話を集めたアーカイブからニューズグループに投稿された、あるストーリーを読んで、この話を書くインスピレーションを得ました。そのストーリーは、確か「ビッキー」というタイトルだったと思いますが、実際にはトランスジェンダーの話ではありません。正直、美人とはいえない、とある女性と一緒に働いている男性の話でした。その女性が美しい女性に変身した後、二人は関係を持つのでした。このストーリーには、トランスジェンダーのアーカイブにのるに値する、ちょっとしたフェチがありましたが、それでも私はこのストーリーが気に入りました。そして、実際に(身体的に)女性を美人に変えて、話しを作為的にしてしまうのを避けつつ、話しを進めることができないか、と考え始めたのです。 deirdreより】


「Fashion  ファッション」 by deirdre

「あれ、誰だったの?」

「誰のこと?」

マーサは、ちょっとカマトトっぽい口調で問い返した。彼女は僕が誰のことを言ったのか知っているはず。

「ランチの時、リードの店で一緒にいた女の人だよ」

「ああ、フェイスのことね」 マーサが笑い顔を隠すのを見た。「彼女のこと、魅力的だと思った?」

このフェイスって娘は、それはもうびっくりの女の人だった。モデルか、映画スターなんかになれるに違いない。彼女自身がなりたいと思えばの話だが。

「彼女とデートしたいと思っているなら、私に優しくしなきゃダメよ」 マーサは、にやりと笑った。

「例えば、彼女が僕とデートするように仕向けられるということ? 君が?」

「あら、どうして私にできないと思うのよ?」

僕はマーサの顔に浮かぶ表情を見ながら、しばし沈黙してしまった。マーサが、こういう難題に取り組むのが好きなのは確かだ。僕は、また、ちょっと黙って考え、そして言った。

「彼女、この僕と一緒にデートしてくれると、君はそう思っているんだね?」

「もちろん、だってあなたは私の友達だもの・・・デートの手はずが整ったら、教えるわ」

マーサのために僕は、その夜を台無しにしてしまった。彼女がうまく行くか考えて、何もできなかったからである。

ともかく、そういうわけで僕はフェイスと会うようになった。

「じゃ、あなたはマーサと同じ職場なのね?」

僕はいまだ、何か興奮状態になったままだった。目の前にフェイスがいる。レストランの中、テーブルを挟んで真正面に座っているのだ。マーサは約束したことをすべて行ってくれて、この「ブラインド・デート」を設定してくれたのだった。

「ああ、そうだよ。マーサは3年前に、うちの会社に就職したんだ」

「彼女、あなたのこと、良い人だと言ってたわ」

フェイスのことをまじまじと見つめた。・・・僕は良い人でいるべきなのか?・・・「でも、マーサは、僕について、すべてを知ってるわけじゃないと思うけど・・・」

フェイスは、くすくす笑った。「いいわ。でも、どんな秘密をマーサに隠し続けてるのかしら?」

「僕の邪悪な側面だけ」

「私にも、それを隠し続けるつもり?」

「僕の邪悪な側面には注意したほうがいいよ。僕も、そいつをうまく押さえ込んでおくことができなくなるかもしれないし」

僕は、僕が発したきわどい言葉を上手にかわすフェイスを見つめていた。本当に美人だ。こういう雰囲気がとても気に入った。

みなさんは、こんなのはうまく行くはずがないと思うかもしれない。あるいは、2回目のデートが終わる頃には、僕には彼女は持ちこたえられないと気づくだろうと思うかもしれない。また、あるいは、フェイスは、次のデートのチャンスすら与えないんじゃないかと思うかもしれない。

だけど、実際は、3週間のうちに僕たちは同棲を始めていて、その2ヵ月後には結婚したのである。

本当に、フェイスは美しい。

一緒にハネムーンを過ごしたハワイのビーチでのビキニ姿のフェイス。ホテルの部屋に戻り、日焼けの肌を露わに、全裸になったフェイス。旅行中、谷間を飛行機で飛んでいた時の、ショートパンツとホールター姿(参考)のフェイス・・・

そのような彼女の姿を毎日、目にできるなら、いつでも仕事を辞めて、ホノルルに引っ越しても良いとさえ思った。でも、旅行から帰ってきた後も、フェイスは同じく美しいままだった。僕は、毎晩、仕事から帰って彼女に会う、その瞬間のために生きているように思った。

「そうよ。ここで、彼、初めてあなたのことを見たのよ」

僕とマーサは、フェイスと一緒にランチを食べようと、リードのお店に来ていた。フェイスは、僕が彼女を見た時の話しを、それまで聞いたことがなかった。興味を持ってる様子だった。

「見ず知らずの女に釘付けになったの? でも、マーサは、ブラインド・デートを考えたのはマーサ自身だって私に言ったのよ!」

「罠に嵌められたのさ。うーん、でも、バレた以上、僕たち離婚して、それぞれの人生を歩んだ方が良いかも」

「いいえ、あなたは私を押し付けられたのよ」とフェイスは言い、それからマーサに向かって、「でも、あなたは、絶対に許さないからね!」

僕は、マーサがフェイスの言いがかりを受け、同じような言いがかりで口答えするのを見ながら、初めてフェイスを見た後にマーサとした会話を思い出していた。僕が今こうしてフェイスの隣に座っているなんて、あの時には信じられなかっただろうなと思っていた。フェイスは、よく、僕をこんな気持ちにさせる。何か不思議な感覚で、しばらく、うわの空になってしまうのだ。

ようやく現実に戻った時には、二人の会話は映画の話になっていた。

「・・・いえ、私、その映画、もう妹と一緒に見たの」 フェイスが喋っていた。

「どんな映画だった?」 とマーサ。

「最高だったわ。ぜひ、見なきゃダメ!」

「そうねえ、独りで見に行くことになっても、今夜、見に行こうと思うわ」

独りで映画に行く? 僕もよくそうしていた。でも、ここしばらくは、なかった。フェイスと出会ってからは一度もないのは確かだ。

僕はマーサの顔を見た。僕の知る限り、マーサはあまりデートをしていない。もっと言えば、彼女がデートの話しをするのを一度も聞いたことがなかった。

「ねえ、あなた? あなたがマーサと一緒に行ったら?」 フェイスはそう言い、その後、マーサに向かって、「彼、私がその映画をすでに見てしまったので、どうするか迷っていたのよ。彼と一緒に行って。いいでしょう?」

マーサは、僕がどんな反応をするのか知るのが嫌そうな顔で僕を見た。僕には、良いアイデアのように思えた。もっとも、それをフェイスが言い出したことに驚いてはいたが・・・。フェイスは、独占欲が強いところがある。

ともかく、フェイスは喜んでいるようだし、マーサは、どう返事してよいか分からないようだったので、僕は、マーサに軽く微笑みかけ、頷いて見せた。

「私のこと本当に信じられるの?」 マーサがフェイスに言った。僕はマーサの顔にユーモアの印が浮かんでいるか探した。だが、そんな表情が出てたかどうか、よく分からなかった。

フェイスは、くすくす笑い出した。「あら、私、彼のことは、充分、魅了していると思ってるわ」

そういうわけで、僕は8時半にマーサを迎えに行くことになった。

マーサを車に乗せて、街へ向かい、劇場についた。だが、困った状態になっていることに気がついた。

「どうやら、もっと早く来るべきだったようね」 

「大ヒットしてるようだね。これだと、かなり待たないと・・・」

僕たちはシネコンの前を車で通り過ぎながら、様子を見ていた。歩道に行列ができていて、通りの角まで続いている。

「あのね? 実は私、本当にこの映画に乗り気かって感じでもないのよ」 とマーサは言った。僕が思っていたことと同じことを言っている。「確かに、今夜、ぜひ見たいと思っていたけど、行列に並んで待った後でも、劇場は混んでると思うわ。たとえ、中に入っても・・・」

「僕も同じことを考えていたところだよ。他にも見る機会はあると思うんだ」と提案してみた。

結局、その提案に従って、車を戻し始めた。そして、どこか帰る途中で、何か飲み物でも飲もうということになった。

「がっかりした?」 と僕は訊いてみた。

「私、デートを経験しそこなったわ」

「いや、今日のことは、なしで済ませても構わないんじゃ?」

「そこが間違ってるところなのよ」

おっと! 僕は危険な領域に足を踏み入れ始めてるようだ・・・ひょっとして、彼女は、あまりデートをしたことがなかったのかもしれない! 僕は適切な言葉を捜していた。その間、どうやら僕はマーサのことをじっと見ていたようだった。

マーサは、ちょっと背が高い。すらりとしているというわけではないが、太ってるとは言えない体形なのは確かだ。上半身は基本的に平坦で、腰から太腿にかけては、少し幅広な印象。だから、上半分の体形と下半分の体形が、マッチしていない感じだ。

あごは引っ込んだ感じで、鼻はほんの少しだけ長すぎる。髪には何かすべきじゃないかと思った。ただ肩に垂らしているだけ。カールも何もないストレートで、色もありきたりな茶色だった。

「何も返事がないわけ?」 とマーサは苦笑いした。

僕は言葉が出せず苦境に立っていた。でもマーサは、こういう点には割りと良い性格をしている。

「ほんとはね、今日は、私にとって、初めてのデートだったの」 依然、苦笑いしながら彼女は宣言した。

「まさか!」

自分を抑える間もなく、口から出ていた。だが、考えてみれば、このような宣言に対して適切な返事など存在しないものだ。

「からかわないでくれ」 これでリカバーできただろうか?

「ねえ、フランクになってよ。私は、事実を受け止められるから。そうしなくちゃいけないから。私、デートに誘われないの」

僕たちはずいぶん前から友達だったし、マーサはいつも僕に優しくしてくれていた。心から、何か適切な言葉をかけてあげたいと思った。

「男たちは、バカばっかりなんだよ。君のことを知らないんだ」

「いい? 私は、こういう状態に慣れているの。男の人たちは、そもそも、私を誘おうという気持ちすら抱かないのよ。たとえ、私のことを知っても、そうなの」

「まあ、連中が本当の君を見ることができないなら、そういう連中なんだ。そいつらにデートに誘われなくても、あまり気に病むこともないんじゃないかな・・・」

「・・・セックスね」

「え、何?」

「セックスをしてないのよ」

「バージンなの?」

「そうなの」

ああっ! 禁句警報発令だ! 驚きすぎているように聞こえたかもしれない。彼女を落伍者だと言ったように聞かれたかもしれない。

「自分を大事にして、だよね」

「バカな! まあ、同じ部屋にいても気にならない人から自分を守って、ってこと」

「本当に誘われたことはないの?」 言葉使いに気を使うべきなのだが、そう言っていた。

「2回ほど。最初の人は、もう何年か前に退職しちゃったけど・・・」

「でも、本気で言うんだけど、やっぱり、男たちは君のことを知らないと思うんだよ。もし、男が、僕のように君のことをよく分かったら・・・」

「そうしたら、フェイスと結婚するでしょうね」

僕はマーサを見つめていた。言葉が出なかった。彼女が言おうとしていることが、すとんと胸に落ちた気がした。そして、ふと、もしかしてマーサは僕のことに興味があったのかもと思った。

マーサは陰気に笑った。「うふふ・・・ごめんなさい。フェアじゃなかったわ」

「いや、多分、フェアなことだよ」

僕は身の縮む思いだった(参考)。自分でも認めざるを得ないが、マーサをデートに誘うことを一瞬でも考えたことがなかったのだ。彼女が、僕の知ってる女性の中で、一番、楽しくて、性格の良い女性だと知ってるのに、そうだったのだ。

しばらく沈黙が続いた後、マーサが言った。「もう、この話はやめましょう。私、もう諦めて、一生、純潔な人生を送ることにしたから」

「でも、君が思ってるほど、不幸なわけでもないよ。セックスなんて、言われているほどのことじゃないんだから」

「じゃあ、あなたは本当は楽しんでいないということ?」

「いや、僕は男だから」

マーサの顔に、ある表情が浮かんだ。そして僕は、今の返事で、彼女のフェミニスト的な細かな感覚を踏みにじってしまったと分かった。

「それ、どういう意味?」

「男は、セックス狂になるから」

「じゃあ、女は?」

「セックスが好きな女・・・女性もいるけど、セックスなしでも幸せな女性もいるよ」

「でも、そういう人たちは、チャンスがなかっただけかもしれない・・・」 マーサは少し弱い声になり、遠くの方へ視線を向けた。 「本当は、男の人と同じように、それをしたくてジリジリしているのかもしれないのに・・・」

僕は、話しが少し個人的なことに立ち入りすぎているように感じたが、同時に、マーサは僕に対して率直に、誠実に語ってくれているのだということにも気づいた。こういう関係になれることは、めったにあることではない。

マーサのことは、彼女が入社してからずっと良い人だと思っていたので、彼女が、こんなに親密な友情関係を示してくれて、僕の中の何かが喜んでいるのを感じた。確かに、僕とマーサは、以前、僕の個人的な問題について話し合ったことがあったし、一度、マーサが怒っていた時があって、マーサが自分の母親について長々と語るのを聞いてあげたことがあった。けれど、これほど個人的なことを話し合える関係ではなかったと思う。

実際、僕には、世間で言う親密な友達関係という友人はいない。僕は、フェイスとすら、こういう話し合いをしたことがない。

僕がじっと彼女の顔を見ていたからだろう、マーサはふと我に返ったらしく、僕の方を見て、恥ずかしそうに微笑んだ。

「一番、腹立たしいのは、どうして、フェイスのような人たちは、私のことが危険でないとあんなに自信がもてるのかっていうこと・・・」

「おい、よせよ。僕たちみんな友達じゃないか」

「私がフェイスに、私のこと信用できる? と訊いたとき、彼女がどんな笑い方をしたか覚えてないの?」

「フェイスは、君がジョークを言ったんだと思ったんだよ。君とは友達なんだから」

僕は、この件についてマーサは少しひねくれて考えているんじゃないかと思った。

「あら、そうかしら? 私じゃなくって、誰か、彼女よりも魅力的な女のお友達だったらどうかしら? フェイスは、軽々しくあなたにその人と一緒に行かせるかしら?」

僕は返事しようと口を開けた。だが、急に返事に詰まってしまった。マーサは続けた。

「フェイスがあなたに私と一緒に行ったらと言った時、あなたも全然驚かなかったんじゃない?」

マーサの瞳に浮かぶ表情。マーサは今や憤慨しているようだ。僕は、まだ、返事ができずにいた。

「世の中のフェイスたちは、みんな私のことを、そう思っているのよ。どんな男も私と一緒なら危険はないと」

僕はマーサを見た。まだ怒ってる。自分の扱われ方に、これまでの人生、ずっと不満を持ち、内面で傷ついてきたのだ。

「・・・フェイスが間違ってると証明することもできるよ」

僕は小さな声で言った。酔いがまわってきていたのだろう。そうとしか考えられない。

マーサは僕を見つめた。彼女の目に涙があふれてきているのに気づいた。

しばらく沈黙していた後、同じように小さな声で、彼女は答えた。

「・・・あなたが、この話しを冗談にしてしまうとは思わなかったわ」 

「冗談なんかじゃない!」

「私のこと我慢できるの? フェイスに隠れて浮気できるの?」

「さっき言ったように、男たちは君のことを知る必要があるんだ。それに君が指摘したように、フェイスは確かに君に対して無礼な態度をしていた」

「あなたに分かってもらえたらいいのに・・・あなたが私の奥底の本能をどんなに強く誘惑しているかを・・・」 マーサはちょっとぐらついているように見えた。

「本気だよ」 僕が心から本気になっていることを彼女に分かってもらおうとした。

「こういうのって、何て言うのかしら? ・・・お情けのエッチ?」

僕はぐっと怒りをこらえた。「なんて言葉を!」 

マーサはちょっとにやりと笑った。

「いいかい? 僕たちは、僕がフェイスと会う前からずっと友達だったんだ。それに、僕たち、お互いのためなら何かできるはずだ。君は、その年配の人よりは僕の方が魅力的に思っているんだろう?」

「あなたは私のこと魅力的だと思ってるの?」

「ああ!」 本当にそうなのか? と自分を疑っていたが・・・。

マーサは、何か考えているようだった。

「・・・もうやめて」 

小さな声だが、きっぱりと彼女は言った。マーサは僕の言ったことを信じていない。

「じゃあ、僕に証明させてくれよ」

マーサのアパートへ車を走らせながら、ちらりと彼女の方を見た。結局、僕はマーサを説得したのだった。自分でも信じられない。そして、僕自身、内心、これを待ち望んでいることにも気がついた。本当に、心から待ち望んでいる。もっと言えば、僕はすでに興奮していた。

マーサは何を思っているのだろう? ちらりと彼女の顔を見た・・・ちょっと微笑んでいるような気がした。満足感からの笑みなのだろう。そう思いたかった。僕も、これがマーサにとって良い結果になって欲しいと思っていた。

それにしても、どうして僕はこんなふうに反応しているのだろう? 背徳的なことだから? こんなに冷静にフェイスを裏切って浮気をするのを考えるなんて、誰が思っただろう? でも、興奮させるような、何か他の要因があった。マーサを利用しようとしていることか? 彼女の弱みにつけ込もうとしていることか? いや、違う。でも、それに近い何かがあった。それに近すぎて危険なほどの何かが・・・。多分、僕は、完全には石器時代の男のような野蛮性を振り払うことができていないからだろう。

ふと、マーサが微笑んだのを思い出し、もう一度、考えてみた。ひょっとすると、彼女こそ僕を利用しようとしているのかもしれない。僕の弱みにつけ込もうとしているのかも。でも、僕はそれは構わない・・・マーサは、自尊心を持って当然だし、それに値する女性なのだから。僕自身、マーサにとって最も良いことになるのを望んでいたから。

明かりを消して、二人で彼女の寝室に入った。マーサは恥ずかしがっているようだった。二人でベッドに腰を降ろし、僕は彼女にキスをした。マーサは嬉しそうにしていた。かなり長い時間、キスを続けた。

暗闇に目が慣れてきて、マーサの顔が良く見えるようになった。

僕は、彼女のブラウスを脱がし始めた。マーサが緊張するのを感じた。だが、その後、彼女は急に自分からボタンを外し始めた。

今は上半身、ブラジャーだけになって座っている。僕は彼女の背中に手を回し、ブラのホックを外すことにした。

「準備はいい?」と訊くと、「ええ」とマーサは答えた。僕の目を見つめている。

彼女の声の調子から、大丈夫だと判断し、僕はブラのホックを外した。僕がホックを外す動きをしてる間、マーサはずっと僕の視線を追っていた。ずっと僕の目を見つめている。僕は彼女の胸に目を落とした。

「・・・うふふ、男の子みたいでしょ!」

片腕を彼女の背中に回し、抱き寄せて、もう一方の手を彼女のお腹に当てた。ゆっくりと手を這わせて、胸へと上げていく。薄暗い明かりの中でも、彼女の裸の肌がはっきりと意識できていた。

マーサは、身動きせず、座ったままでいた。依然として、顔を上げて、僕の目を追っていた。不思議と言って良いほど落ち着いた表情をしていた。雰囲気がどんどん真剣さを増していくのを感じた。

僕の手が彼女の右の乳首にたどり着いた。愛撫を始めた。擦ったり、円を描くように撫でたり、つまんだり・・・。マーサを見ると、深く呼吸をしていて、大きく息を吸っては、吐きだしていた。

「感じる?」 そう訊いて、沈黙を破った。

「ええ!」 小さな声で、喘いでいるような息づかいも混じっていた。

僕は、乳首への愛撫を続けることにし、もう一方の乳首に素早く移った。それから、指で愛撫を続けながら、頭を下げて、唇を重ね、キスを再開した。

間もなく、マーサは、キスされながらも、うめき声のような声を上げ始めた。キスを解くと、はあはあと息を荒げて呼吸している。

僕は、優しく彼女を押し、ベッドに仰向けにさせた。そして、彼女に覆いかぶさり、乳首にキスを始めた。

マーサは、僕の唇がそこに触れ、舌で弾いたり、吸ったりすると途端に喘ぎ声を漏らし始めた。マーサは興奮を高めている。それでも、僕は愛撫を続けた。・・・そして、それほど時間が経っていなかったが、マーサがいきそうになっているのが分かった。急に息づかいが速くなり、激しくなる。そして、突然、彼女は息を止め、ちょっと小さく泣くような声を上げたのだった。

僕は、それでも愛撫をやめず、マーサがまた普通の息づかいを取り戻すまで続けた。彼女が落ち着いたのを見計らって、指で優しく乳首を擦りながら、僕も彼女の横に並んで横たわった。その時になって、マーサが、さっき達した時、ジーンズの上から自分で股間に触っていたことに気がついた。

僕は彼女の耳に、「きれいだよ」と囁きかけた。

言ってすぐに、間違ったことを言ってしまったかもしれないと思った。マーサは、僕が単に誘惑のために、こんなことを言ったのだと思ったんじゃないだろうか? あるいは、単に、気を使って言っただけと思ったのでは? 正直、このときの僕は、一般社会の基準で言うと女性的美しさには当てはまらない人と一緒にいるという事実を忘れてしまっていた。僕は、マーサと愛し合うという経験に反応して、言葉を発しただけなのだ。

でも、マーサは何も言わず、横たわっていた。普通の呼吸状態に戻ろうと休んでいる様子だった。しばらく経ち、ようやく彼女は僕の方を向いた。薄暗い中ではあったが、マーサが微笑んでいるのが見えた。

「ありがとう。たとえ、あなたにとっては、何の意味もない言葉だとしても嬉しいわ」

「マーサ!」と僕はかすれた声で言った。「君は分かっていないんだ・・・」と途中まで言いかけ、後は、彼女の手を取って、僕の股間に押し付けた。僕が勃起していることが感じ取れるようにと。

「何なの? あっ、私、どうしてこんなこと言ってるんだろう? まるでバカみたい」

「これは、僕が君に対して友情の他に感じていることの証しだよ」

マーサの手はズボンの上から僕のペニスを覆ったままだった。彼女は、依然として僕を見つめていたが、何か迷っているような表情を顔に浮かべている。

「ねえ、しても良い? ・・・あなたの服を脱がしてもいい?」

彼女の手が僕の股間を軽く揉んでいるのを感じた。バージンにせよ、そうでないにせよ、マーサのことにどんどん惹きつけられていくのを感じた。僕が即座に返事をせずにいると、マーサは僕のシャツのボタンを外し始めた。

「本当に、初めてなんだね?」 しばし沈黙した後、僕は問いかけた。

マーサはくすくす笑い出した。

「うふふ。中古品じゃないかって心配しているの?」

彼女はシャツのボタンを外し終え、今度はズボンのホックも外した。手を蛇のようにさせて、僕の下着の中に滑り込ませ、ペニスを握った。

「どういうふうにするか、すっかり熟知しているようだよ。それに、いわゆる乙女の恥じらいってのがどこに行ってしまったのかって思って・・・」

「ねえ、私はせっかくのチャンスを逃したくないと思っているのよ」と、彼女は、また、例の自己卑下したようなことを言った。

マーサは僕のペニスを握るだけで、手を動かしたりはしなかった。でも、そのため一層、あまりに速く射精してしまうのではないかと僕は心配になってきた。

僕は体を起こし、シャツを脱ぎ捨て、それからズボンと下着を一緒に脱ぎ捨てた。再び横になると、彼女はまた僕のペニスを握った。

「ふふ・・・いま、私のベッドに裸の男がいる・・・」

「その男を使って何をするつもりなんだい?」

そう訊くと、マーサは急にジーンズのチャックを降ろし、脚を伸ばして、脱ぎ捨てた。さらにはパンティも脱ぐ。

彼女も全裸になるとすぐに、僕は彼女の頭を両手で押さえ、もう一度キスをした。キスをしながら、片足を上げて彼女の体に絡ませ、包みこむようにして引き寄せた。裸の肌が触れ合うのを感じながら、キスを続ける。

ようやく、マーサは顔を引いてキスを解いた。だがまだ僕の腕の中に抱かれている。マーサは僕の耳元に顔を寄せ、囁いた。

「あれをしたい・・・今すぐ・・・」

僕は今でも覚えている。できるだけ優しくしようと努めながら、彼女の上に覆いかぶさった時のマーサの顔に浮かんだ表情を。恐怖と期待が入り混じった表情。

彼女にとって一番の苦痛の時を越えた。その後、彼女の中に入ったまま、しばらくじっと動かずに、抱きあって横たわった状態でいた。マーサを傷つけることが一番の心配だった。あまり何度も「大丈夫?」と僕が訊くものだから、最後には、マーサは、そのしつこさに嫌気がさしたようなことを言っていた。

しばらく経ち、突然、僕もマーサも時間のことが心配になり、部屋の明かりをつけた。マーサはローブを羽織り、僕は素早くシャワーを浴びた。玄関先で、彼女にキスをして、僕は彼女の家を去った。マーサはローブ姿のまま玄関先に立っていて、僕が行くのを見送った。

フェイスは映画のことについては何も訊かなかった。僕は、自分が進んで嘘をついたことに我ながら驚いた。罪悪感を感じるべきなのに、どうして感じなかったのだろう? 頭の中は、フェイスがマーサに対して取る態度のことだけだった。

翌日、職場にて。

僕は、極度に緊張しながらマーサに話しかけた。マーサは、ただちに、僕の態度の変化を察知したようだ。というのも、廊下でおはようと言った直後、彼女は僕のオフィスにどかどかと押し入ってきて、僕を捕まえ、ドアを閉めて言ったから。

「私、昨夜のことで、私たちの友情関係を台無しにするつもりはないの! だから、あなた、ちゃんと私に話しかけなさいよ!」 真剣な口調だった。

「はい、分かりました」

そう言うと、彼女は僕を叩いた。まあ、軽くではあったけど。

その後、マーサは笑い出した。「うふふ。まあ、最初はそれでいいわ。でも、決して私のことを恐れるような態度をしないで。もう、どんなことがあっても、アレをすることは、もうないから」

「もう一回」 

これを言った時、僕は、自分の声だと信じられなかった。

「え? 何て?!」

「もう一度、する必要があると思う。君はセックスの経験をしたかったんだろう? 最初のは、数には入れられないよ」 自分の口から出るまで、こんな考えはしていなかったと思う。

マーサは苦笑いをした。

「調子のいい作り話をしているの? ・・・未熟な女王様に?」

「未熟だなんて・・・。君は天性の才能を持っているよ」 僕は、マーサの顔に浮かんだ、あの無防備な笑顔が好きだ。

「じゃあ、もう次のランデブーも計画してあるの?」

「ああ、フェイスが、今度の土曜日、午前中、妹とショッピングに行くと言っていたんだ」

「女王様は、受け取れるものは受け取らなければならないということね」

「女王様って! 僕は君には別の言葉を使うよ。ともかく、君は乗り気なんだね?」

土曜日、フェイスが出て行くとすぐに僕は狂ったようにマーサのところへ車を飛ばした。マーサは玄関で僕を出迎え、満面の笑みを浮かべた。すぐさま僕の手を引っ張って、彼女の寝室へと連れて行く。

寝室はカーテンが目一杯引かれていて、ほとんど真っ暗に近かった。そして寝室に入ると同時に、マーサは僕に襲い掛かり、ぐいっと僕を引き寄せ、キスをしてきた。キスを休んだのは、二人、ベッドに上がる時だけ。ベッドの中に入った後も何分かキスが続いた。

ようやくマーサはキスを解き、僕の股間をまさぐった。前と同じ勃起した状態の僕のペニスを探り当てる。彼女は、それを確かめるとにっこり微笑んで、僕の服を脱がし始めた。とは言え、僕も、彼女の成すがままになっていたわけではなく、僕も、同時に彼女の服を脱がしていた。

この時は、前と比べて、マーサの身体を良く見ることができた。少なくとも、カーテンからかすかに漏れ入る日光により、前とは違う形で彼女を見ることができた。マーサは依然として、嬉しそうに笑みを浮かべたままで、もはや、自分の裸体がはっきりと見えていても、少しも恥ずかしがるようなところはなくなっていた。

「私が上になるのを試してみても、いい?」

驚くべき天性の才能だと思った。とても、反論することなどできなかった。どうやら、マーサは、その体位の方が女性にとってうまく行くと、人から聞いたか、何かで読んだのだろうと思う。

実際、マーサが上になって始めると、僕は彼女の振る舞いに、完全に畏敬の念を持つようになっていた。

その激しく狂う様子、上下に体を弾ませる動き、そして僕の分身を上下に滑り絞る彼女のその部分。

これまでの人生で、この時のような体験はしたことがなかった。マーサはセックスが大好きであることがはっきりと伝わったけれど、彼女がこれほどセックス好きであることが僕にもたらす効果の大きさにむしろ驚いた。

その日の夕方、家に戻ったが、ずっとマーサとの行為のことが頭から離れなかった。

月曜日。職場でマーサと話しをする時、どうしても僕は笑顔になってしまい、それを隠すのに苦労した。

昼食時、マーサが僕のところに来て、一緒にランチを食べに出ようと誘った。一緒にランチを取るのは普通のことだったが、友達のままでいようと誓いあったにもかかわらず、僕はランチを食べる時、どういうふうに話しをしたら良いか、途端に不安になった。いまや二人は友人同士ではない。あのような関係を持ってしまったわけだから。

「また、おどおどしているみたい・・・」 

マーサがきっぱりと言った。彼女は僕のことを分かりすぎている。

僕はいきなり彼女の両肩に手を伸ばし、引き寄せ、キスをした。彼女もキスに応え、1分くらいキスをしていた。それから体を離し、小さな声で言った。

「こんなことしないで。こんなことをしちゃダメなんだから!」

マーサは僕に抱かれながら体を僕に押し付けていた。勃起が体に当たるのを感じていたはず。

いや、実際には、この日、昼食時に僕たちは行為に及んだわけではない。ただ、僕のオフィスで、彼女に指で愛撫し、乳首にキスをするところまでは行った。そして、この時もマーサは絶頂に達した。二人で僕のデスクの端に腰を降ろしながら、僕は、マーサが絶頂から落ち着くまで、ずっと抱きしめていた。

「クイッキー(参考)をすることなるとしたら、フェラでいかせるのも覚えなくちゃいけないわね」

突然、そんなことを言い出すので、僕はびっくりして彼女をまじまじと見つめた。そして、彼女は、そんな僕を見て笑った。

実際、マーサは、口での愛撫も覚えたのだった。そして、それから間もなく、僕たちは、誰か他の人にランチに誘われたりしない時は、いつも、僕のオフィスで昼食時を過ごすようになった。さらに、僕は、家に帰る途中、彼女のアパートに寄り道して帰るようにもなった。

マーサは、まさに、目を見張るべき女性だった。セックスが好きであるという点で。様々なことを試したがる点でも、驚きの連続だった。クンニリングスをしてあげると、本当に、狂ったように燃え上がった。自分が、こんなにまで女性を喜ばせることができるという感覚は、本当に、特別な経験だった。

そして、マーサは、またも僕を驚かせるようなことをしたのである。僕にセックス雑誌を買って欲しいと言ったのだ。

どうしてと訊くと、大学時代にちょっと読んだことがあって、それ以来、ずっともっと読んでみたいと思っていたと言った。

話しを聞くと、どうやらマーサは、体験記とか投稿告白のような雑誌のことを言っているらしい。そういう雑誌は、大半が男性向けに売られているのだから、基本的に、どんなことが男性を興奮させるかを表わしているはずで、それが知りたいのだと言う。

僕は、どんな雑誌にも、男にとって何の刺激にもならないような記事や、逆に、興ざめさせてしまうような記事があるものだよと言ったが、彼女は頑固だった。結局、僕はマーサに2冊ほど買ってあげたのだった。

次に彼女に会った時、訊いてみた。「で、どう思った?」

「何のこと?」

「あの雑誌さ」

「男の人って、本当にああいうのが好きなの? 投書とかにあるああいうのが?」

「全部が好きってわけじゃないよ。それは保証できる」

「まあ、でも、あなたが好きなのを、少なくとも一つ当ててみせることができるわ」

「何だい?」

「3P」

僕はマーサの顔をじっと見つめた。なるほど、確かに彼女はあの手の雑誌から男性についての何かを学び取ったらしい。

「・・・しかも、別の女の人を交えての」

そうマーサは話しを続けたが、僕は返事をしなかった。

「どう?」 黙っている僕に痺れを切らしてマーサが問いかけた。

「確かに、そのアイデアにはアピールがあるよ」

マーサはケラケラと笑い。その後、黙った。僕の返事を待っているようだった。僕は黙ったままでいた。

「どう? してみたいんでしょう?」 ようやくマーサが言葉を発した。

「3Pを持ちかけているということ?」

「やってみたくないの?」 マーサは、どうしても僕に自分で言わせようとしている。「さあ、イエスかノーかはっきりしなさいよ」

「まあ、訊かれたから言うけど、イエスだ」

「オーケー! 私にできることを考えてみるわね」

マーサは、自分から3Pの設定をすると言っているのか?

「誰と?」

マーサはフェイスのことを考えていたのだろうか?

「さっきも言ったでしょ? 私にできることを考えてみるって」

そそられる話しではあったが、僕は、あまり安心できる気分にはなれなかった。マーサは、他の女たちに、僕がそれを望んでいると話すつもりなのだろうか?

ふと、別の考えが浮かんだ。「マーサこそ、3Pを望んでいるんじゃないのか?」

「ええ、楽しいかもと思っているわ」

「女性にも惹かれるのかい?」

「いや、特にそういうわけではないわ」

「じゃ、ちょっとは、ということ?」

「多分ね。私は、あなたが興奮しているところを見るのが好きなの」

だが、それなら、こんなことをするのは、明らかに職務範囲を超えている。

「そんなことをする必要はないじゃないか」

「いいえ、するわ」 マーサは意思を固めているような口調だった。こうなると、彼女の意思を変えようとしても無駄なのは分かっていた。

「誰か、意中の人はいるのか?」

「はっきりとではないけど。ジョイスに聞いてみようと思ってるの。誰か興味がありそうな人がいないかって」

ジョイスは、マーサの友人で、僕も2回ほど会ったことがある。マーサは、ジョイスはレスビアンだと言っていた。

「ジョイスは、男に興味がある人を知ってるのか?」

「私のことを知ってるわ」

「僕が言ってる意味を知ってるくせに」

「他にもっと良いアイデアがあるの?」

いや、僕にはなかった。

翌日、マーサは、真っ先に僕のオフィスに入ってきて、ドアを閉めた。

「いい人が見つかったわ」

僕は、マーサが何を言ってるのか分からず、何秒か、座ったまま無反応でいた。マーサはせっかちそうに付け加えた。「私たちの3Pのための相手よ」

「仕事が速いなあ。それで、その女性に会ったことがあるのかい?」

「ええ。それに、あなたも会ったことがあるわよ」

これは興味をそそられる。 「誰なんだ?」

「ジョイスよ!」 マーサはにやりと笑った。

僕はマーサを見つめるだけだった。僕が知る限り、ジョイスは誰か女の人と暮らしていたはずだ。

「ジョイス自身が、してみたいと言ったのか?」

「そう!」

「じゃあ、彼女、男にも興味があるんだ!」

「それはないと思うわ」

僕は唖然としてマーサを見た。ということは、マーサは、ジョイスがマーサ自身に興味があると察知したというわけか。

「僕が思うに、あの手の女たちは、他の女に手を出せるチャンスがあったらいつでも飛びつくんじゃないかな」

マーサはショックを受けたような顔をしていた。その顔がみるみる怒りの表情に変わっていった。

「本気で言ってるの?」 わざと可愛らしい声で皮肉っぽく言う。

「でも・・・」 僕は言葉を捜した。マーサは、フェイスに浮気をしている僕自身が、まさに同じことをしているのじゃないかと言おうとしていたに違いない。

「・・・何と言うか、多分、レスビアンの人たちも、僕たちのようなストレートな人間同様、時々、自分から進んでややこしい人間関係に関わってしまうこともあるんじゃないかと・・・」

「いいこと? 私、そんなこと言っていないからね!」 マーサは、そう言って出て行った。まだ、怒ったままだった。

昼休みになり、マーサは戻ってきたが、僕と一緒に歩きながらも、不機嫌なままだった(実際、その日は、二人でランチを食べに一緒に外に出たのである)。

それでも、ランチを食べながらお喋りしているうちに、彼女の態度は軟化し始めた。

彼女は、もう、さっきのような言葉は二度と僕から聞きたくないとはっきり断った後、嬉しそうに、例の3Pをいつ行うかという話題に移った。僕は、フェイスに残業ができたと言うか、あるいは、フェイスがこの次に妹と何か用事ができる時まで待つかの二つの選択肢を考えた。話し合った後、僕たちは多分、前者の選択肢の方が良いだろうと決めた。ジョイスも交えるわけだから、彼女にとって都合の良い夜を選ばなければならないかもしれないからだ。オフィスに戻った後、マーサは早速ジョイスに電話を入れ、暫定的な日時を設定した。

実際、僕は、フェイスに、そのデートの前の晩に、仕事で遅くなるので、夕食は外で食べることになりそうだと言うつもりでいた。その3Pデートは、マーサのアパートでの、割と早い時間からのデートになる予定だったから、8時半か9時には家に帰れるはずだった。

そのデートのことを考えながら、僕は一日中、仕事に集中できなかった。ジョイスは、上品な美貌の女性だ。それにマーサよりも魅力のある体つきをしている。まあ、確かに、髪の毛はかなりショートにしているのは事実だが。

そもそも、ジョイスは僕の方にはいくらかでも興味があるのだろうか? 多少なりとも、男に興味がある女性との方が、ずっと楽しいだろうというのは確かだ。それに、もし、マーサが正直なところ女性にまったく興味がないとしたら、いったい、どういう風に事が進むのだろう? だが、そういう懸念があったものの、僕はこのデートにかなり期待していたのも事実だった。

デートの前夜、僕はフェイスに、翌日の夜は残業で遅くなると伝えた。普段よりもかなりナーバスになっていたと思う。多分、家に帰らないために嘘をついたのは、この時が初めてだったからだと思う。普段は、マーサと僕は、フェイスが夜に出かけるチャンスを待っていたから。

翌朝、マーサは、出社してすぐ僕のオフィスにやってきた。興奮しているようだった。笑みを見せながら、訊いてくる。

「心づもりはできてる?」

「それより、君のほうこそ。楽しそうな顔をして。君は女性は好きじゃないと言っていたと思うけど・・・?」

「私はあなたがイクところを見るのが好きなのよ?」

僕は、マーサの言葉を信じてよいのかどうか分からなかった。確かに、マーサは、彼女自身の快感よりも、僕が快感を感じることの方に興味を持っているように思えた。

マーサは、昼食時にも僕のオフィスに来た。フェラをしたいと言う。確かにそれは魅力的なことだったけど、夜まで待てば、もっと気持ちいいだろうと思った。マーサは信じられないような顔をしていたが、ともかく、その行為はせず、代わりに僕たちは昼食を取りに外に出た。二人ともほとんど話しをしなかった。・・・二人とも、多分、気味が悪いほど、ニヤニヤした顔をしていたと思う。

勤務時間が終わり、僕はマーサにくっついて彼女のアパートへ行った。アパートに着くと、マーサはワインを1本と、グラスを3つ用意した。何分もしないうちにジョイスが玄関に現れた。僕が知っている普段のジョイスには似つかわしくなく、かなり恥ずかしがっている雰囲気だった。

3人とも腰を降ろし、ワインを飲んだ。大半は、マーサがおしゃべりをしていた。彼女はいろんなことについて話しをしていたが、多分、彼女はくつろいだ雰囲気にしようとしていただけだと思う。

しばらくして、ようやくマーサが言った。「さあ、そろそろ時間ね」 

そんな感じの言葉だけだった。マーサは、あのミステリアスな笑みを口元に浮かべながら立ち上がり、ジョイスのところに近寄った。座ったままのジョイスを見下ろす。一方のジョイスは、恍惚状態になったような顔でマーサを見上げた。

マーサは体を傾け、ジョイスの唇にキスをした。ジョイスは、うっとりと目を閉じ、座ったまま、マーサにキスをさせていた。

マーサはキスを解くと、ジョイスの手を取り、立ち上がらせ、寝室の方へ連れて行った。歩きながら僕に微笑みかけ、ついて来るようにと合図を送った。

僕が寝室に入ったときには、二人ともベッドの上に横になってキスをしていた。今はジョイスの方が主導権を握っていて、マーサは仰向けになり、ジョイスが彼女に覆いかぶさっていた。キスをしながらマーサのブラウスのボタンを外している。

僕は、その場にただ突っ立っているのがちょっと間抜けのように感じ、どこか腰掛けるか、横になれるところがないかと探した。

ジョイスは僕の様子に気づいたらしく、マーサと一緒に少しだけ横のほうにずれて、僕が横になれるようなスペースを空けてくれた。僕とジョイスでマーサを挟んで横になる形だった。

ジョイスはキスを再開せずに、片肘で体を支え、起こしながら、僕に微笑みかけ、マーサの服を脱がし続けた。マーサもそれに応えて、ジョイスのブラウスのボタンを外し始めた。そして、「あなたも脱いで」 と僕に言う。

信じてくれないかもしれないが、僕は、なぜか裸になるのが恥ずかしい気がした。見ていると、マーサはジョイスのブラウスの前を開き、それから、ブラジャーのホックを外そうと、両手をジョイスの背中に回した。

僕だけが服を着たまま二人を見ているのは、マーサもジョイスも好まないかもしれないと感じ、ようやく僕もシャツのボタンを外し始めた。

ジョイスは一度、体を起こし、ブラウスとブラを一気に脱ぎ去った後、再び横になった。確かに。ジョイスは見事な体をしている。

ジョイスは横になると、マーサの頭を抱き寄せ、自分の胸に押し付けた。

マーサは横向きになり、ジョイスの方を向いた。その後ろに僕がいて、マーサの服を脱がす。

マーサはひたすらジョイスの乳房を吸い続け、ジョイスは、ハアハアと呼吸を荒げていった。見ると、ジョイスは、マーサの頭をしっかりと胸に抱き寄せながら、どんどんクライマックスに近づいているようだった。

「いいわ! すごくいい!」

ジョイスはマーサの頭を胸に押し付け、両目を閉じて、感じまくっている。一方のマーサは、片腕をジョイスの脇に添えていたけど、その他の点では、ただ乳首を吸うことしかしてなかった。

僕はブリーフ一枚を残して裸になり、その後、マーサの下着を降ろし始めた。

ちょうどその時、ジョイスが絶頂に達した。体を強張らせ、顔には苦悶の表情を浮かべた。目は閉じたまま。

そのまま彼女はベッドの上ぐったりと仰向けになった。

でも、だいたい15秒ほど休んだ後、急に体を起こし、僕を手伝って、マーサを裸にする作業を行った。

マーサを素っ裸にすると、すぐに、ジョイスはマーサの乳首に唇を当て、同時に片手を股間に向けた。指の方は、非常にゆっくりと動いていたが、舌の方は激しく動いていた。

マーサは仰向けになって愛撫を受けたが、ジョイスの愛撫が始まると、ほとんど同時といってよいほど早く、呼吸を乱し始めた。僕に視線を向けていたけれど、その顔は、完全に情欲にぼけてしまったような表情を浮かべている。

僕はマーサに顔を寄せて、キスをした。彼女は呆けたように口をぱっくり開けたまま。

いったん顔を引いて、改めて彼女の顔を見た。すると、マーサは乱れた呼吸で喘ぎ声を出しながらも、ちょっと笑みを浮かべて僕を見ていた。・・・マーサは僕に、キスを続けて欲しいと思っている。

僕はもう一度顔を寄せ、舌を尖らせ、彼女の口に差し込んだ。そして、彼女の上歯の裏側を舌でなぞった。すると、「うーん・・・」とマーサは深い唸り声を上げ、さらにいっそう荒い息遣いになった。

僕は彼女の唇にキスをするのはあきらめ、彼女の横に並んで横たわり、横顔に沿って上下にキスを続けた。やがて、マーサもオーガズムに達した。

ジョイスは体を起こしてマーサを見下ろした。まるで、カナリアを平らげた猫のように満足げな顔をしている(参考)。

マーサは横になったままだった。回復しかかっていたが、それから15秒ほどは体を起こせなかったようだ。

ようやく、マーサがほぼ回復したのを見て、ジョイスが言った。

「うつぶせになって」

マーサはだるそうにしていたが、言われたとおりにうつぶせになった。

ふと気がつくと、全裸になっているのはマーサだけだった。ジョイスはまだ下着を着けていたし、僕もブリーフをはいたままだった。ブリーフを脱ごうかとも考えたが、まだ、素っ裸になるのは少し恥ずかしかった。

ジョイスはマーサのお尻を撫で始めた。僕は興味を惹かれた。

「マーサのお尻が好きなの?」と訊くと、「ええ、そうなの」と、ジョイスはマーサから目を外さずに返事した。

ジョイスは、ベッドの上で正座して、両手をマーサの尻頬に当てている。2、3回、軽く頬肉を叩いたりもした。ひょっとして、少しずつ強く叩いてみようとしているのじゃないかと思った。マーサが尻頬を平手打ちされて興奮を感じるかどうか確かめようとしているのじゃないかと。だが、予想に反して、ジョイスはそうはせず、その代わりに指を一本、お尻の割れ目に滑り込ませた。

「まあ、あなたってすごくエッチな娘だったのね」

マーサは両肘をついて、少しだけ体を起こし、肩越しに振り返って言った。笑い顔だった。

「ええ、その通りなの!」 ジョイスはそう答え、一方の手をマーサの脚の間に割り入れ、もう一方の手では指を割れ目に滑り込ませた。

「ああ、本当にイケナイ娘!」 マーサの声に呼吸の乱れが混じっていた。

マーサは、僕の方を見て言った。

「こっちに来て」

僕も肘で体を起こし顔を彼女に近づけた。

「体を起こして、ここに来て。それに、その下着も脱いで」

僕は裸になり、マーサの指示に従って体の位置を変えた。ベッドの上、枕のところに座り、マーサの頭を広げた脚ではさむ形になる。マーサは僕のを口に咥えたがっていると察し、その求めに応じた。

早速、マーサは僕のペニスを咥えこんだ。彼女はディープ・スロートはできない。だが、いつもそうするように、できる限り奥まで呑み込んだ。そして、その位置で留まった。

ジョイスの方は、マーサのお尻に愛撫を続けていた。ジョイスは、その仕事に夢中になっているようだった。

アヌスに愛撫を受け続けていたマーサは、堪えられなくなって、僕のペニスを口から出し、ハアハアと息を荒げた。

しばらく荒い呼吸をして、何とか落ち着くと、再び僕を咥え込んだ。そして、全力を使って頭を上下に振り始めた。こんな姿勢でいるのに、激しい勢いで頭を上下させていた。信じられないほどだった。

その激しさに、僕がほとんどいきそうになった時、急にマーサは口から僕のペニスを吐き出し、声を上げ、そしてオーガズムに達した。

だが、マーサはそこで体を休めようとはしなかった。

達すると同時に、体をくねらせて素早くジョイスから離れ、僕の前に横寝になって、再びペニスを咥えこみ、頭を振り始めたのだった。

僕は、あっという間に達してしまった。これは断言できるが、この時のオーガズムは、とてつもないものだったと言える。確かに、マーサとのセックスはいつも最高だ。だが、この時の絶頂は、この世のものとは思えないほどだった。

オーガズムが終わり、僕は強烈な射精の余韻に浸ってヘッド・ボードに寄りかかり、ぜいぜいと息を喘がせた。

気がつくと、マーサとジョイスは共にベッドの上に座っていた。マーサがジョイスの服を脱がしているところだった。間もなくジョイスも全裸になった。

ジョイスは、座ったまま、マーサにキスをした。マーサはしばらくキスを受けていたが、ふと、それを振り払い、立ち上がった。ジョイスは、立ち上がったマーサを見上げた。笑顔でマーサを見上げる。

「あなたを舐めさせて?」

マーサは、腰に両手を当ててジョイスの前に立ち、軽く脚を広げた。だが、そのままジョイスに舐めさせることはしなかった。体を半転させ、後ろ向きになり、ジョイスや僕がいる方にお尻を向けた。腰に手を当て、仁王立ちになっているのは変わらない。

マーサはその姿勢で、肩越しに僕やマーサを振り返った。

「ジョイス? 私の体が好き?」

「ええ、とっても!」

マーサはまたベッドに座った。ジョイスに向き合って座る。

「彼のをしゃぶってあげないの?」

ジョイスはちらりと僕を見て、その後、マーサに視線を戻した。「できればしたくないわ」

「してあげて?」

ジョイスは少し怖がってる表情になった。低い声になっていた。「お願い、そんなことさせないで・・・マーサは、したくないことはしなくていいって言ったじゃない」

「分かってるわ・・・じゃあ、握ってあげて。あなたの手で」

ジョイスは返事をしなかった。ただ黙って座っていた。

「ちょっとだけでいいのよ」

マーサは、そう付け加えながら、脚を振るようにして座りなおし、ジョイスの手を握った。そのまま、ジョイスの手を僕の方へ引っ張った。ジョイスが引っ張られて僕に近づくと、マーサは彼女の手を僕のペニスにあてがい、手を開かせて僕を握らせ、そして手を離した。

ジョイスは握ったまま動かなかった。

「しごいて」 様子を見ていたマーサが言った。

それでも動こうとしないのを見て、マーサは再びジョイスの手に自分の手をあてがい、僕を握らせたまま、何回か僕をしごかせた。そして、また手を離した。

「さあ、今度はあなたの番よ」

突然、ジョイスは手を引っ込め、立ち上がった。マーサと僕の二人を見ていた。

「わたし・・・私、もう行くわ」

「本気なの?」

「ええ、ごめんなさい」

「ダメよ。お願い! お願いだからここにいて」

ジョイスはすでに自分の服を探して、下着を履こうとしていた。

「お願いだから、ねえ!」 マーサは彼女を振り返りながら言った。それでもジョイスは着替えをやめようとしなかった。

「お願いよ。あなたにして欲しいの」 マーサは懇願する口調になっていた。

「もう帰るわ」

「ダメ。待って! ・・・じゃあ、私と彼を見てるだけでいいから」

「お願い、もうこんなこと嫌なの!」

マーサは切羽詰った感じで叫んだ。「ちょっとだけ待って! お願い、私の話しを聞いて!」 

ジョイスはマーサの様子に驚き、動きを止め、彼女の顔を見た。

「ジョイス? 私が彼にアヌスを犯されるところを見たくない?」

ジョイスは驚いた表情を浮かべた。 「あなたたち、それもやってるの?」

「いいえ」 

ジョイスは立ち尽くしたまま、僕とマーサを見ていた。唖然として、身動きできないようだった。

マーサは立ち上がり、ナイトスタンドのところに行き、KYゼリーを持って戻ってきた。枕を取り、ベッドの中央に置き、その上にうつ伏せになった。尻だけをつんと突き上げた格好になる。そして自分でゼリーをアヌスに塗り込み始めた。

僕は、そんなマーサを見つめるだけだった。ジョイスも、同じで、ただ突っ立ったまま、マーサを見つめていた。

マーサはゼリーをアヌスに塗ると、背中を反らせ、頭を上げて僕に視線を向け、ゼリーを手渡した。それから両腕を前に組み、その上に頭を乗せて、顔を横向きにさせた。

ベッドの真ん中、マーサが横たわっていた。

お尻だけを突き上げて、アヌスを犯されるのを待っている。そんな姿を僕とジョイスはただ見下ろしていた。誰も何も言わなかった。そんな状態で、少なくとも1分はじっとしていたと思う。

ようやく僕は動いた。

マーサの後ろに這って行き、ゼリーで指に潤滑を与えた。それから、指を1本、彼女の尻の割れ目にあてがい、ゆっくりと入れ始めた。

その間、誰も、声一つ立てなかった。

マーサはただ横になっているだけ。前に組んだ両腕に頭を乗せ、顔を横に向けている。目は閉じたままだった。

指を1本入れた後、少しだけ動かし、2本目に取り掛かった。

ジョイスは、その場に彫像のように立って見ていた。服を着て、いつでも出て行けるようになっているが、立ち去ろうとはしていない。

僕は2本目の指も差し込んだ。そこの入り口を広げていく。マーサが少しだけ僕の指に対して押し返す動きを示した。多分、大丈夫なのだろう。

僕は、指を抜き、彼女に覆いかぶさるような体勢になった。ペニスを握り、狙いを定める。

依然として、みんな黙ったままだった。

身体を押し付けた。できるだけ優しく入れていこうと思った。身体を押し付け、奥へ奥へと進んでいく。

ちらりとジョイスの方を見た。・・・まだ服を着たまま。だが、右手を左の胸に当てて動かしていた。

僕はマーサに体重を掛けた。・・・とうとう、根元まで入った。

それからゆっくりと少しずつ動き始めた。マーサが、小さく、「ああ!」と言うのが聞こえた。だが、その一言だけで、後は、また何も言わなくなった。

僕は動き続けた。徐々にテンポを上げていく。マーサは、まったく声を上げなかった。だが、僕の動きに合わせてお尻を突き上げていたのは事実だった。

僕たちの身体の動きに合わせて、肌がぶつかり合う音が響いていた。その他には、ベッドがきしむ音しか聞こえなかった。

そして、僕は達した。マーサの中に射精し、力尽き、彼女の上に覆いかぶさった。マーサは僕の下でうつぶせになっていた。依然として、黙ったままだった。

ドアが開く音が聞こえ、ジョイスが出て行ったのを知った。

僕は身体を反転させてマーサから降り、隣に仰向けになった。そして片腕を彼女に回し、引き寄せた。横寝になりマーサを後ろから抱いた。2本の重なり合ったスプーンのような形だった。

「想像してたのとは違ったんじゃない? きっとそうね」 マーサはそう言って、くすくす笑った。

「ああ、多分。・・・彼女、また一緒にする気分になると思う?」

それを聞いてマーサは笑い出した。「それを心配するのは私の仕事」

「もう変なことには誘わないって約束するのかな?」

マーサは、また、くすくす笑った。

その日の後、しばらくの間、僕はジョイスの姿を見なかった。だが、マーサによると、彼女はジョイスと話す機会を持ち、二人の仲は大丈夫だとのことだった。

ともかく、あの夜のアナル・セックスは、マーサと僕との間で行ったうちでも、最も興奮した行為だったのは確かだった。もっとも、マーサはまだまだ考えていることがあるらしく、僕に、もっとその手の雑誌を買ってくれと求めるのだった。

ある金曜の夜のことだった。その日もマーサのところに寄り、それから家に帰った。

その夜はフェイスがすでに帰っていた。リビングで独り座っていた。

フェイスは妹と一緒に外出していたはずで、少なくとも、もう1時間は帰ってこない予定だった。

その夜、フェイスは、僕が遅くなったことや、彼女が早く帰った理由について何もしゃべらなかった。

だが、翌朝になってフェイスは僕に訊いてきた。

「それで? 昨日の夜はどこに行っていたの?」 

実に何気ない口調で訊いてきたので、僕は、フェイスが何も疑っていないと思った。

「ああ、ちょっとモールに行って、ぶらぶらしてきたんだ」

「何か買ったの?」

「いや」

フェイスは僕の方を見て、何か考えているような表情になった。

「え? 何?」 

そう訊くと、フェイスはにっこり微笑んだ。

「陰で何か進行中?」

「うわっ、何だよ、その質問?」

「うふふっ。ただの冗談よ! でも、どうしてそんなに後ろめたそうな顔をするの?」

僕はちょっとフェイスの顔を見つめた。そして、適切な返事を求めて、頭の中を高速で回転させた。フェイスは僕の顔をじっと見ていた。

突然、フェイスは立ち上がった。

「嘘つき!」

そう言って、部屋から駆け出していった。

僕はフェイスを追って寝室に入った。

「フェイス! 何を考えているんだ!」

彼女はベッドにうつぶせになっていた。僕の呼びかけに、頭を上げ、振り返った。

「誰なの?」

「フェイス! どこで、そんなことを?」

「私もバカじゃないのよ。いや、バカかもしれない。相手が誰なのか言ってよ!」

彼女の顔には決意を固めたような表情が浮かんでいた。

「フェイス・・・」

僕は弱々しい声を出した。フェイスは僕を見つめたままだった。射抜くような視線を向けている。

「言って!!」

僕は深呼吸をした。「・・・マーサだよ」

彼女は暗い声で笑い出した。

「ふざけないで!」

僕はフェイスが次にどうするのだろうと思いながら、ただ彼女の顔を見つめるだけだった。フェイスはじっと僕の目を見据えていた。

「そういうこと!!」

突然、彼女は叫んだ。そして、激怒を爆発させ、僕がマーサを利用したとか、もう彼女には会うなとかとまくし立てた。そして、最後には、僕に、家から出て、二度と帰って来ないでと叫んだ。

僕は、後先考えず、家を出た。車に乗り、マーサのところに走った。マーサは、心配そうな顔で、玄関口に立つ僕を迎えた。

「フェイスにばれてしまった」 そう言ってから中に入った。

「まあ・・・」と言って立ち尽くすマーサの前を通り過ぎてリビングに入り、カウチに座った。すぐにマーサも僕のところに追いついた。

「何てこと・・・何てことに・・・」 彼女は弱い声で繰り返すだけだった。

「追い出されたんだ」 彼女を見上げながら言った。

マーサは依然として恐怖に引きつった顔をしていた。

「これからどうするつもり?」 マーサは困惑しきった顔で訊いた。

僕はうなだれた。 

「フェイスはすごく怒っていた。もう、彼女は僕のところに戻ってこないと思う」

マーサは返事をしなかった。僕は顔を上げて彼女を見た。

マーサの目には、何か決意したような不思議な表情が浮かんでいた。僕をじっと見つめていた。しばらくそうした後、彼女は低い声で言った。

「・・・出て行って」

「え?」

「今すぐ、出て行って」

マーサが怒りをこみ上げてきてるのが見て取れた。僕は、事態が理解できなかった。

「出て行って! 今すぐに!」 マーサは僕に怒鳴りつけるようにして言った。

僕は立ち上がり、出て行くことにした。マーサは、ずっと僕を怒鳴り続け、僕が家を出ると、バタンと音を立ててドアを閉めた。

僕は車に戻り、運転席に座った。いったい何が起きたのか、まったく理解できなかった。いとも簡単に、そして急速に、僕の人生が崩れていくのを感じた。

しばらく呆然としていた後、車のエンジンを掛け、運転を始めた。しばらく、ただあてどなく車を走らせていた。これからどうするかを考えながら。

結局、とりあえず生きていかなければと本能が働き、モーテルにチェックインした。それから、衣類を取りに家へ車を走らせた。フェイスは家にはいなかった。僕は、衣類をかき集め、フェイスに会わずに家を出た。

スーツケース一つだけの持ち物で、月曜の朝を迎えた。職場では、一日中、マーサはほぼ完璧に僕を避け続けた。

夕方、モーテルに戻り、それから夕食のことを考えた。

通りの反対側に、よく食事をするレストランのチェーン店があったので、そこに歩いて行った。

食事を終えようとした時だった。顔を上げると、僕の前に、彼女が立っていた。

フェイスだった。フェイスは一言も言わず、僕の前に腰を降ろした。

「マーサと話しをしたわ」

フェイスは怒っている様子はなかったが、気持ちはよくつかめなかった。

「あなたが、あんなことをしたなんて信じられないわ」

「君を傷つけるつもりはなかったんだ」

そうは言ったものの、かえって罪悪感が増した。マーサのためにフェイスを裏切ることを始めたのは、部分的であったにせよ、僕自身だったではないか? だが、心のどこかで、僕はこんなことをしたいとは思ってなかったとも感じていた。

フェイスは僕を見つめたまま、ただ座っていた。食事が終わり、支払いを済ませた。フェイスは僕についてモーテルに来た。ドアを開けると、フェイスが言った。

「マーサが言ったわ」

「何て?」

「あなたは、私に追い出された後、彼女のところに行かなかったと。ねえ、私、あなたがこんなところにいるのを見たくないわ。我慢できない。なんなら帰ってきてもいいのよ・・・」

ああ、これで問題から抜け出せる。僕はフェイスを見つめた。フェイスが、ばれてしまった日から、こんなにも早く僕を、ある程度、許す気持ちになってくれたなんて、ほとんど信じられなかった。これで、元通り、すべてが良くなるはず・・・。

でも、僕は返事をしなかった。フェイスは困惑した顔をした。

「・・・戻ってきて」 前より小さな声で、フェイスは繰り返した。

だが、僕はまだ返事ができなかった。

突然、フェイスの表情が変わった。いきなり僕をベッドへ引っ張った。

「私に会いたかったんじゃないの?」 

低い声で言い、ベッドに仰向けになった。そして、自分でブラウスのボタンを外し始めた。

僕は横たわるフェイスを見ていた。彼女は、本当に、僕が知っている中で一番ゴージャスな女性だ。ハワイのことを思い出した。ブラウスのボタンを全部外し終えたフェイスは、いたずらっぽく微笑んだ。

僕は部屋を出た。

ドアを出て、閉めた。それから1分ほどドアの隣の壁に背を預け、寄りかかっていた。その後、考え直して、歩き始めた。ハイウェイをただただ歩き続けた。

1時間ほど歩いた後、モーテルに戻った。

フェイスはいなくなっていた。

その夜、かなり遅くなって、ドアをノックする音で目を覚ました。強く叩く音ではなかったが、執拗にノックしていた。5回ノックして、静寂、5回ノックして、静寂と。ドアを少しだけ開けた。そこにはマーサがいた。僕はドア・チェーンを外し、マーサを中に入れた。マーサは、怖がっているような顔で僕を見た。

「さっき、フェイスから電話があったの・・・大丈夫?」

僕はマーサを見下ろした。彼女は何を考えているのだろう。そして僕は急に不安を感じた。説明できない感覚だった。

「ああ、大丈夫だ」

マーサは急に笑顔になった。両腕を広げ僕の首に抱きつき、そして唇を重ねてきた。


おわり
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